研究者って自称ギタリストと何が違うの?

クソ田舎助教から、政令指定都市に逃亡しました

BMB2015 (生化学会、分子生物学会) に行ってきたよ

近年いろいろ大変だったので行けていなかった生化学会分子生物学会。
数年ぶりに行ってきました。



いやー、数年で本当に変わるね!!
もうね、ゲノム編集全盛!
1分子解析もこのレベルまで見れるのか、とか!
立体構造解析だってもはや微少結晶も二次元結晶もいらず、単分子で電顕でできる時代。
Cas9 ってゲノム編集だけじゃなく、こんなことまで応用できるのか!というのも衝撃。



もちろん、全く知らなかったわけじゃないし、なんとなくそういう流れを聞いてはいました。
噂とか論文とかではいろいろ聞いてはいたけど、しかし、実際に何千人の仕事が1か所に集まるとなんか、時代の流れの大きな変化のようなものを感じざるを得ません。
これ、全部合わせるともう、生物でできないことなんかないんじゃないかと思わされました。
取り残されそうな危機感も持ったけど、できないことはないっていう勇気もわいた!



それに対して、タンパク質科学やX線立体構造解析はどんどん下火になってますね。
タンパク3000の時代の盛り上がりはもう見る影もない。

バクテリアも減ったね!
かつては真核で、ヒトで、やりたいけど、無理だから簡易なモデルとしてバクテリアで、ってのがあったけど、いまの時代だと、
「ヒトじゃ無理? ふーん、やる気ないんですね」
って言われても仕方ないような状態ですわ。

これはもう、バクテリアやる人は農芸化学に全面シフトしないきゃいけないかもしれないね。
基礎研究やるのに、ヒトやマウス以外をターゲットにする理由って? と思うと、よくよく考えなきゃいけない。
俺も真核生物にはシフトしたけど、ヒトやマウスじゃないからな、よく考えなきゃいかん。
考えてはいるけどね。
モデル生物として〜、って言い訳はもはや通用しないし、モデル生物って概念ももはや消えかけているね。
知りたい生き物をダイレクトにターゲットにする時代になった!



かと思うと、3日目にあった「オモロイ生き物の分子生物学」というワークショップは入りきれないくらいの大盛況だったらしい。
ハダカデバネズミ、ミズタマショウジョウバエザゼンソウクマムシ、シクリッド、クラゲ、シロアリ、なんかの、マウスやヒトじゃないオモロイ生物について、オモロイ話があったそうだ。

うん、やっぱこっちも大事、というか、オモロイんだよな。
ヒトじゃなくても、オモロイもんはオモロイんだよ。
それは時代が変わったって変わらないんだ。


うん、やっぱ流行や時代なんか気にせず、オモロイことをしよう。
幸いできないことはないくらい、時代は進んできたんだから。

加工肉の発がん性が話題になっているが、脱アミノの話をしよう

加工肉の発がん性が話題になっています。
結論から言うと、何十年に渡って、何グラム以上食べ続ける影響なんて人間じゃ証明できません。
今までの患者のデータから傾向が見えると統計的に言うのみです。
人体実験なんかできないですもんね。
放射線の影響なんかも一緒ですね。




ところで、加工肉には、亜硝酸ナトリウムという物質が入っています。
塩析のためだったり、微生物の殺菌のためだったり、発色のためだったり。
亜硝酸ナトリウム - Wikipedia



この亜硝酸ナトリウム、というか亜硝酸塩はですね、DNA に障害を起こすことが知られています。


一応 DNA の説明。
知っている方は読み飛ばしてください。
DNA は化学物質ですが、遺伝子の情報を保持した物質です。
DNA を構成しているアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C) という 4 種類の、塩基というものの並び順に意味があって、この配列で遺伝情報を保持しています。
なので、この配列を書き換えちゃうと、いろいろと不都合が起きたり起きなかったりするわけですが、
「ここの遺伝子の情報が書き変わるとがんになっちゃうよ!」ってごく狭い限られた場所が運悪く変異してしまうと、がんになります。





で、亜硝酸塩はこんな、順番がとても大事な塩基というものを、別の塩基に変えてしまう働きがあります。




図はWikipediaから拝借。
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見てもらうとわかる通り、シトシンには 4 位 (図では上のところ) にアミノ基があります。
亜硝酸塩はこのアミノ基に作用して、O に変えちゃう働きがあるのです。
これを脱アミノと言います。
アミノ基を O に変えられたシトシンはどうなると思いますか?
ウラシルに変わっちゃうのがわかりますね!


それから、DNAの中の塩基は所々、メチル化された状態になっています。
新旧鎖の区別だったり、制限酵素からの保護だったり、いろいろな役割があります。
シトシンはよく、5 位がメチル化されて、5-メチルシトシンの状態になっているのですが、こいつも亜硝酸塩で脱アミノするとどうなると思いますか?
なんとチミンに変わっちゃいます!!







どうでしょう、ハムなんか食べたら一発でがんになりそうな気がしませんか?
でもご心配なく。
DNA は障害が起きてもちゃんと修復されます!


そう言えば日本人受賞に隠れがちですが、今年のノーベル化学賞は DNA 修復系でしたよ!!




さて、ウラシルになってしまったものを治すのは塩基除去修復です。
有名なものは UDG (ウラシル DNAのグリコシラーゼ) ですね。
Uracil-DNA glycosylase - Wikipedia, the free encyclopedia
ウラシルになった塩基だけをプチっとちぎる酵素です。
その後すぐさま問題ない塩基を埋めたり、けっこう周辺も作り直したり、で修復します。




次、チミンに変わっちゃったものを治すので、面白いものは vsr というやつ。
これはミスマッチ修復です。
Very short patch repair - Wikipedia, the free encyclopedia

シトシンは常にグアニン向かい合わせ、というルールが DNA にはあるのですが、シトシンがチミンに変わっちゃうと一時的にこのルールが崩れます。
そこで、グアニンとチミンが向き合ってるミスマッチ見つけて、治す酵素です。

豆知識をいうとこの vsr、ゲノム上ではシトシンをメチル化する酵素のすぐそばにあるんですね。
5-メチルシトシンが危ないって、生き物が知ってるかのようです。







いやーいろいろあるのですね。





なので、亜硝酸塩の影響の話に限って言えば、ハムを食べたからってすぐさまがんになんかなりません。
ヒトの DNA というのは日光に当たれば障害が入ります。
昆布を見つめても、息しても、障害起きまくりです。


しかし、今まで生きてきてなんともないというのが、何よりみんな体の DNA 修復が働いている証拠です。
なので加工肉の発がん性がどうこう、って話と、今回の脱アミノの話は決して結びつくものではありません。と思います。
もちろん、修復が追いつかないくらい食べたら、がんになるかもですけどね!
どんだけ膨大な量かわかりません。


確実なハムの影響の話をしたいとしても、人間だと長期間の様々な影響を排除しきれないので、証明は非常に困難です。
人体実験ができれば別ですけどね。
被験者 A は最小栄養のゼリーのみ、被験者 B は最小栄養のゼリー+ハム、で 30 年生かして結果を見る、とかしない限り証明は無理です。
なので、これは生物学者というより統計学者の仕事かもしれませんね。
実際今回の報告も統計的な観点から言われました。


とりあえず、ノーベル化学賞とハムの話で、何にも関係ない話をしました!

投稿してたことも知らない自分の論文が出てるんですが?

科研費シーズンですね。
私も申請書頑張って書いております。
10月が1年で1番勉強する時期かもしれないですね。



科研費申請書作成のために、業績欄をまとめていると、あれあれ?
自分の名前で、全く記憶にない論文がありました。
同姓同名?
いや、僕はそこまでありふれたフルネームでもないので、可能性は低そう。


コレスポは誰?
数年前にポスドクやってた研究室のボスでした。
内容は、僕があのラボにいた時、少しだけかじったテーマ。
間違いない、これは俺のことだ。


、、、って、投稿したことも知らないんですけど?
パブリッシュされてたことも知らないのですけど??
これって研究倫理とかでダメな事例として習うやつじゃないですかね。
共著者全員の同意がないと著者にしちゃいけないって。
なんだこれは? なんだあのハゲは?


これであの元ボスが、この論文でオボりでもしてたらめちゃくちゃ厄介なことになります。
俺はまったく知らないのに、捏造犯の一味になってしまいます。
まあ、さすがにオボったりはしてないでしょうけども。
しかし、おそろしいです。
うん、こわい。



卒業した学生で、連絡が取れなくて、とかなら、まだ理解もできます。
それでもダメなんですけど、もちろん。
しかし、僕はまだアカデミックの世界にいて、現役で研究しております。
そういう研究者に対して、無断で著者にいれるって、研究者として完全にナメてるとしか思えません。
俺はナメられたんです。



しかし、これをこの先、文句を言っておおごとにしても僕にメリットはまったくない。
むしろ、ややこしいことになるだけ。
こんなのでもめても、一瞬でこの業界の人々に広まって、厄介なことになるだけでしょう。
腑に落ちませんが、特に誰かに何かを言うことなく、終わらせるしかないのでしょう。
まあ、教授と元ポスドクだもんな、力関係上、何も言えないよ。。。


もっと頑張って、研究実績つんで、無視できない存在になるしかないのでしょうね。
がんばろー。

コスパの高い大学って?

最近、コスパコスパよく聞きますよね。
結婚はコスパが悪いとか。
コスパの高いレストランとか。

実は大学についても言われることがあります。
コスパの高い大学、って。
お買い得大学やお買い損大学とかも言われますね。


一般的には受験や就活の場面において使われる言葉のようで、意味合いとしては、
「簡単に入学できるわりに、名門っぽく思われる大学」
という感じのようです。


つまり、
コストに当たるのが、受験勉強の労力・時間
パフォーマンスに当たるのが、他者からのウケ
ということのようですね。


これは実にくだらないです。
と言うのは、これって言い換えると、
できるだけ中身が空っぽのままで名門大学卒の称号を手にしたい
ってこと。
つまり、こんなことを言っている人間はすなわち、
コスパの悪い人材になろうとしている
ということに他なりません。




じゃあコスパのいい・悪い大学、って議論は無駄なのか?
いやいや!
コストとパフォーマンスの定義を変えることで、もうちょっと意味のある話ができると思います。
というわけで大学のコスパについて考えてみました。




まずはコストと、そのパフォーマンスについて定義しましょう。



コスト

これはもう、学費以外あり得ません。
名前通りお金です。
これはなぜかというと、次の通り。

人生におけるコストと言えば、お金以外なら時間と労力があるかと思います。
しかし、どの大学も入学できる年齢は同じ、卒業までにかかる時間は同じです。
とすると、時間は大学によって異なるコストになり得ません。

労力についてですが、受験勉強や卒業までにかかる労力、時間は全て、自己研鑽のための労力です。
受験にしか役立たない労力や、単位取得にしか使えない労力を費やして、無駄だったわ〜とか言うようでは、そもそも生き方を間違えています。
大学入学も、大学卒業も、全て自分に実力をつけるため。
むしろ「いっぱい勉強できる」というのはコストではなくて高パフォーマンスのほうじゃないかとすら思えます。

大学という研究・教育機関においては、勉強の大変さも勉強に必要な時間も、それはコストと呼べるものではないでしょう。
よって、ここではコストを、学費とします。



パフォーマンス

これは難しいです。
大学に何を求めるかは人それぞれですから。
なぜその大学を選んだか、いくつか考えるだけでもこんな感じです。

・就職がいいから
・資格を取るため
・威張れる大学名だから
・学びたいことを学ぶため
・部活するため
・住みたい土地にあるから
・研究力が優れているから
・研究設備が優れているから
・師事したい教員がいるから

これを平均化して、得られるものが多い大学なんて議論が出来るのでしょうか?

・・・それを、あえてしましょう!
多少強引ですが、多くの人が望むものが叶う大学は、みんなが行きたいと思うはずです。
みんなが行きたいと思う大学は、入試の競争率が高くなって、結果的に受験の偏差値があがるはず。
ということは、平均的に、多くの人がパフォーマンスが高いと思う大学は、必ず偏差値が高いはず!
というわけで、多少強引ですが、受験偏差値を、大学のパフォーマンスとしてしまおうかと思います!
異論は認めます。。。。



結果

工学系の学部について、縦軸に学費、横軸に受験偏差値として、各大学をプロットしてみました。
学費はこちらのサイトから。
工学部・機械工学科の学費ランキング |大学・専門学校学費ランキング
2012年度の初年度費用です。
当然ながら国立大学は一律同じ金額です。


偏差値は、細かい学科別ではなく、今年度のベネッセの学部別偏差値表からとりました。
偏差値一覧 | Benesse マナビジョン
パフォーマンスとしての指標なので、ざっくりした感覚で捉えるくらいでいいかと思います。


2012年度の学費と、2015年度の偏差値というミスマッチはありますが、大きく差はないでしょう。
今回、比較に用いた大学とデータは以下の通りです。


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このままじゃわかりにくいので、グラフにしてみます。

が、国公立大学と私立大学では偏差値を出す母集団が異なりますので、比較するには偏差値も少しギャップがあります。
感覚的には私立大学を-3、国公立大学を+3ほどすると、早慶旧帝大と同レベルになるので、ちょうどいいように思いました。
よって、私立大学は-3、国公立大学は+3という補正もいれてみました。
上のグラフが生データ、下のグラフが補正済みです。

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全体的に言えば、右下にあるほどコスパが高い、左上にあるほどコスパが悪い、ということになります。

これを見ると私立大学が青い帯に集まり、右肩上がりになっているように見えます。
私立大学はコストとパフォーマンスに相関がある、と言えますね。
いい私大ほど、学費は高いってことです。
この帯の中でも、左上側の端に近い方がコスパが悪い、 右下の端に近い方がコスパが高いということになります。

具体的に見ていきます。
中部大学や東海大学は青い帯の左上の端なので、偏差値はそれほど低くないのですが、コスパはあまり良くない方と言えます。
東京理科大学は青い帯の右下の端なので、意外とコスパがいい方だとわかります。
早慶上智は青い帯の中央付近なので、私大のコスパとしては平均的と言えそうです。

MARCHからは明治大学青山学院大学がありますが、どちらも左上に寄っているのでコスパは悪め。
関西からは、同志社コスパ高いですが、関大は平均的、立命館も平均的ですがちょっと悪めと言えます。
名古屋では、名城大学コスパ高いですが、愛工大はちょっと悪めですね。
九州は、福岡大学、福工大、崇城大学などいずれもコスパは高めです。
地方に行くほど、学費は低いのかもしれないですね。


が、やはり何と言っても、国公立大学コスパの高さは目を見張ります。
旧帝大東工大に入れるなら、コスパ最強と言えます。
早慶あたりはパフォーマンスも高く、よい大学ですが、やはり国公立と比べるとコスト(学費)はバカになりません。
公立大学も、それほどパフォーマンスが高いわけじゃないところも多いですが、コスパで言えばやはり、私大よりいいと言えるでしょう。


ところで、なんだか国公立の分布エリアに私大の青い点がひとつ。
なんだここは? と思って調べてみると、豊田工業大学という、トヨタがやっている大学のようです。
トヨタの社会人学生や、将来トヨタで働く一般学生を育てるための大学、という側面があるようで、一般学生はかなりの人数がトヨタに就職できるそうです。
さらに、そういう性質でトヨタがバックアップしているので、学費も私大としては最安レベル。
というか公立大学レベルの学費です。
そりゃコスパ高いわ。。。
第一工業大学も、偏差値は低めですが、コスパで言えばかなりいいですね。


左上に外れてる私大もありますが、ここで名前を出して議論することは控えておきます。
だって、偏差値に反映されない魅力がきっとある、のでしょう、たぶん。


結論

コスパはどう頑張っても国公立大学が最強。
・私大も、有名私大なら大学で得られるものは大きいが、やっぱり国公立大学と比べると学費はけっこうかかる。

これらはわりと当たり前のことですね。

・全体的には、私大はいい大学ほど学費が高い傾向。
豊田工業大学国公立大学並みのコスパ

このへんはちょっと発見でした。

私立大学に着任しましたよ

試用期間が終わりましたよ。
どこでも同じかと思いますが、着任半年は試用期間です。
実際そんな簡単に首切れるわけないですが、なんかあったら首切るよと言われている以上、おとなしくしていないといけませんでした。

しかし、4 月から半年過ぎ、無事に試用期間も終了!
無事に新しい土地に移り、新しい職場に着任しました!
私立大学のパーマネント助教です。
大学ブランドランキングでその地方の 10 位以内に入るような大学なので、その地方の私立ではまあまあいいほうと呼べる大学だと思います。
しかし、あくまで地方なので、関東を中心とした世間的には、うちは名門大学とは思われてません。
まあ、"ブランド" って曖昧な概念なので、必ずしも偏差値とか研究力とかのランキングじゃないし、その地方での認知度、みたいなもんと言い換えれるかもしれないですね。


で、これまでのキャリアで、学生時代も含め、初めての私立学校です。
小中高も公立、大学も国立、今までの職場も国公立だったので、ほんとに初めてです。
それでカルチャーショックを受けたこととして。

大学の教育の理念をみっちり仕込まれました。
そして創立者の一生のようなものを、みっちり教えられました。
これはもはや洗脳でした。
内容として、いいことを言ってるっちゃ言ってます。
そして、国公立ではない私立学校として、どのような理念のもとで教育を行うのか、きっちり共通認識として持っておくべき、というのも理解できます。
しかし同じことをこう何度も何度も時間かけて、となると苦痛で苦痛で。
なるほど、私立ってこういうものか、というのを感じさせられました。


研究環境はなかなか良いです。
これまでの10倍以上研究費あります。
というか、僕個人につく研究費と、ラボの研究費と、ボスの個人研究費合わせると、今までの職場の 20 倍でした。
つまり、今までの職場に留まっていたら定年までの 30 年で貰えるお金が、ここでは 1 年半で貰える計算です。
すごいです。
下手な国立よりあるようです。

共通機器も、今までを思うと嬉しいくらいあります。
上位地方国立ほどではないのでしょうが。
しかし学内で足りないものは、近くにあるそんな国立大学に行けば何でも借りれます。
どうしても何か使えなくて困ることはなさそうです。


やはり、研究者にとってステップアップは大事だと思いました。
よりよい研究環境に移れるチャンスがあるなら、行かなければなりません。
上の環境がふさわしい人間になれば、自ずと移ることになるはず、と思って日々頑張りましょう!

信念を持って持論を発表すること

科学者という人種は、自分の信念を売るのが仕事だと思っています。
世の中というのはおそらく、高い様々な壁に周囲を囲まれており、人はその壁の中だけで暮らしているんだと例えることができるでしょう。
壁というのは人類の知識の限界であったり、技術の限界であったり、強い思い込みであったりを指す例えです。
ちょうど世の中は、進撃の巨人のような世界です。
科学者は、この壁の形であったり、壁の向こう側の世界であったりを、「私はこうなっていると思う!」と主張し、壁を動かしたり壊したりするのが最大の存在意義だと言えるでしょう。



科学者や芸術家や何かの最先端に身を置く人、などを除くと、世界を覆う壁を感じる機会はそう多くないですし、科学者だって、毎日壁を探して生きているようなもんです。
だからこそ、科学者は日ごろから壁を意識して生活する必要があります。


しかし、このように壁の形や壁の向こう側に、思い入れや妄想を強く持ちすぎると、実験結果の解釈を見誤らせることがあります
科学に対して誠実であれば誠実であるほど、自分の望む世界が見えた時に疑い深くなる必要があります。
疑って疑って実験を重ね、疑いが晴れるまで実験を尽くして初めて、世界の壁が動くんでしょう。
これは科学者としてとても正しい姿勢で、とても重要な振る舞いです。



ただ、本当にこのような正しい姿勢のみしか、存在を許してはならないのでしょうか?



科学の作法にのっとって正しく実験をし、自分の信念を示唆する一部のデータが現れてきたとします。
ただ、それが証明されたというにはまだ少し足りません。
ここで発表しちゃうのは早計かもしれません。
このような時、本当に正しい姿勢では、まだ信念を盲信せず、疑い深くあれ、とするのが本来です。
しかし、「私はこんな信念を持っていて、このデータはこれを示唆するよ!まだ証明はできていないよ!」という発表も、世に出ることで意味をなしたり、それをヒントに研究が発展したりすることも考えられます。



嘘を発信すること、不確実なことを真実のように発信すること、ねつ造すること、これはいけません。
が、フライング気味であることを明記したうえで、あえて世に出すという方法も、時と場合によっては悪くない手、とする考え方もまた、存在しております。


「Aという説を示唆する結果1が得られている。しかし、2という結果はBという説を示唆している」となったとき、本来ならば今は何も主張すべきではありません。
が、「もし特別な信念があれば、1の結果だけを世に主張すべきだ」とする考え方の人もおります。
日本人より、海外に多いという話を聞いたことがあり、日本人は信念がないから、と揶揄されたこともあります。


これをどこまで許すかは難しいです。
やりすぎると、某S細胞のようなことにもなりかねません。
強すぎる信念、強すぎる妄想は科学にとっては猛毒です。


が、自然科学は自然哲学であり、科学者は哲学者でもあります。
実験データへの誠実性を大切にすると同時に、この世のとらえ方に対する信念というものも、同様に大切にしていく必要があるのではないでしょうか。


データとの誠実な向き合い方が科学者の生命線であると同時に、心に強く持つ信念もまた、科学者の生命線と言えるでしょう。
無邪気さ、結構大事です。
無邪気に妄想する自分と、冷静に批判する自分、両方欠いてはならない存在です。

所見を求めることができる研究者って

教員公募、推薦者の推薦書ならわかりますが、「所見を求めることができる研究者」ってのがありますよね。
あれってどういう扱いで、いつ誰に調査が入るの? と疑問に思います。


最近、元ボスに電話して、移籍する話をしたら大変驚かれました。
当然調査は入っているものと思っていたのですが…
どうやら調査は入っていなかったようです。
「所見を求めることができる研究者」筆頭だったのですが。


前も書きましたように、私と深いつながりのあった他の先生に調査が入っていたことは明らかなのですが、この先生は「所見を求めることができる研究者」としてはあげていませんでした。
となると、こういう「所見を求めることができる研究者」みたいなものは完全に無視して、聞きやすい人がいればその人に聞くってこともあり得るんですね。

おそろしや。



今までの 2 回の経験です。
現職も、春からの移籍先も、ちゃんと誰かに調査は入っていました。
二回とも、調査があったよ、のようなことをにおわされます。

一度は面接に呼ばれた後、シンポジウムで元ボスと顔を合わせた時、
「この前調査が入ったよ」と言われました。

次は (今回は) 面接に呼ばれてすらいない段階のときに、メールでやりとりしているとそのようなニュアンスをにおわされました。
「え? え? なんで応募したの知ってるの?
てか調査が入ったの? 俺面接呼んでもらえるの?」
的な軽いパニックが数日ありました。
面接呼ばれるまで落ち着かないよ…


ほんと、色々気が抜けないですよね。