時計
僕の居室は、前年度まではセミナー室かなにかだったらしい。
壊れた時計が最初から壁にかけてあった。
着任した当初に、治せるのかなと思って時計を壁からはずしてみた。
ちょうど時計に隠れるように、壁に「猫かわいい」みたいな落書きがしてあった。
時計をあけると、液漏れで緑色になった電池が入っていた。
なおすのも、はずすのも、なんか違うと思った。
そのままそっと壁にかけなおした。
止まっている時間は3時半あたり。
質問にきた学生が夕方になって、「え、あれ止まってる? え、ほんとはもうこんな時間!?」となるのは鉄板のリアクションだった。
僕のせいじゃない。
学会で昔もらった、シグナル伝達のマップとかのポスターを、夏に壁に貼って落書きが隠れるようにした。
その時に時計をようやくはずした。
後期から配属されてきた女の子が、「先生、部屋に時計が欲しいです」と言い出した。
星野真理風のかわいい子だ。
「時計、あるにはあるんだけど壊れてるんよ」と言ってあの時計を渡した。
彼女は緑色の塊をはずし、電極を磨き、僕のエネループを奪って時計を再生した。
さすが工学系。リケジョ。
「もう先生、やる気の問題ですよ」
と言って、壁のポスターもはがして貼りなおして位置を調節し、ちゃんと元の場所にかけてくれた。
なんか、ええなあ。
ええなあ。
学生がいるって、ええなあ。
世話やかれてる、俺。
Mの血がさわぐ。
ただあれだ、学生が女の子しかいないと、居室のドアをしめるとか、何かに同行させるとか、ちょっとした行動がセクハラと言われるんじゃないかとびくびくする。
嫌われるとセクハラでっちあげられるかもしれないから、気を付けよう。
学生時代の指導教員の教え、「ドアはしめるな」をがんばって守ります。